一般社団法人 公認心理師の会 

国民の健康のための公認心理師にむけて -今後の活動方針-

2022年5月28日

一般社団法人 公認心理師の会

<目次>

1.公認心理師として配置されることで社会に貢献できるようになったこと

2.国家資格化されてよかったこと

3.公認心理師の課題と当会の活動方針

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

c.公認心理師の会としてどのように国民に貢献したいか

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

4.各分野の課題と当会の活動方針

保健医療分野の課題と当会の活動方針       医療部会

教育分野の課題と当会の活動方針         教育・特別支援部会

司法・犯罪分野の課題と当会の活動方針      司法・犯罪・嗜癖部会

産業・労働分野の課題と当会の活動方針      産業・労働・地域保健部会

福祉分野の課題と当会の活動方針         福祉・障害部会

公認心理師の倫理・職責の課題と当会の活動方針  倫理・職責・関連法規委員会

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本文書では、公認心理師が国民の心身の健康のためにどう貢献できるか、社会的な問題の解決にどう寄与できるか、そのことに一般社団法人 公認心理師の会がどのように関われるかをまとめた。

1.公認心理師として配置されることで社会に貢献できるようになったこと

 公認心理師が国家資格となったことで、国民の心身の健康に深く貢献することができるようになった。

公認心理師法の立法を進めていただいた国会議員の方々、関連する行政の方々、立法化を推進いただいた方々に深く感謝したい。

各分野の法制度で公認心理師が明記され、国民の心身の健康に貢献できるようになった

公認心理師の活動は、1)保健医療、2)教育、3)司法・犯罪、4)産業・労働、5)福祉の5分野からなるが、それぞれの分野の法制度で公認心理師が明記された。これにより、国民の健康に貢献できるようになった。

1)保健医療分野

 医療保険制度の診療報酬の中で、これまでは臨床心理技術者等と書かれていたが、新たに国家資格となったことで、明確に公認心理師と書かれた。これによりわが国の医療保険制度の中に公認心理師が正式に位置づけられた。例えば、小児特定疾患カウンセリングにおいて医師の指示のもとで公認心理師の活動が独自に報酬化されたり、いくつかの項目で施設基準の中に明記された。これにより、医療現場における他職種との連携が進み、チーム医療に公認心理師が大きく貢献できるようになった。これらにより、国民の心身の健康にいっそう貢献できるようになった。

2)教育分野

 公立の学校に配置されているスクールカウンセラーの中心として公認心理師が位置づけられ、児童生徒および保護者、教職員のメンタルヘルスに対する働きかけが可能になった。これにより、学校現場における他の専門職との連携が進み、チーム学校としての活動に公認心理師がいっそう貢献できるようになった。

3)司法・犯罪分野

 犯罪被害者への支援、ギャンブル依存症・アルコール依存症への集団療法などにおいて、公認心理師が明記され、公認心理師が貢献できるようになった。これにより、他職種との連携が進み、その貢献はいっそう大きなものになった。

4)産業・労働分野

 企業のストレスチェック制度の実施者として公認心理師が新たに指定された。また、職場環境改善計画助成金(事業場コース)の専門家として公認心理師が指定された。このように公認心理師が職場のストレス軽減に大きく貢献できるようになり、他の専門職との連携も進んだ。

5)福祉分野

児童福祉(例えば児童相談所における児童心理司の資格など)、障害者福祉(例えば療養・就労両立支援指導における両立支援コーディネーターなど)において、公認心理師が明記され、他職種との連携が深まり、国民の福祉に大きく貢献できるようになった。

他職種との連携への貢献 

 公認心理師法42条では、関係者との連携が義務づけられており、公認心理師には多職種連携のチーム活動が期待されている。上で述べたように、公認心理師は各分野で他の専門職との連携を深め、これにより、国民の健康への貢献はいっそう大きなものになった。

心理職の質保証と自己研鑽 

養成と国家試験が法制度化されたため、心理職の活動の質保証が担保され、国民が安心して公認心理師に相談ができるようになった。これに対応して、公認心理師自身もさらに一層効果的な専門技能を高めるために、継続的に自己研鑽を行っている。

2. 国家資格化されてよかったこと

公認心理師にとっても、国家資格ができたことは画期的なことであり、多くのメリットが生まれた。

専門職としての保証

 国家資格として認められたことで、他の国家資格の専門職と対等の立場でチーム活動ができるようになった。例えば、病院では、医師・看護師・臨床検査技師・作業療法学士など、ほとんどが国家資格であるのに対し、これまで長い間、心理職だけが国家資格ではなく、給与も専門職ではなく一般事務職として扱われることもあったが、国家資格となったことで、ようやく他の資格と同等になり、専門職として認められるようになった。

職域の拡大

 公認心理師が国家資格となり、前述のように各分野の法制度で公認心理師が明記され、社会の中のいろいろな領域で職域が拡大し、能力を発揮できるようになった。また、国家資格になることによって、健康増進の施策立案にも公認心理師が意見を求められる機会が増えた。

プロフェショナリズムの自覚と養成制度

 厳しい養成と国家試験によって、心理支援業務に対する知識と技能が高まり、法律や制度の知識も必須となり、また倫理や職責などのプロフェショナリズムを深く自覚するようになった。大学と大学院・実務経験プログラムの6年の養成制度が確立したことで、能力が高度化・均質化され、より優秀な学生が集まるようになっている。

3.公認心理師の課題と当会の活動方針

 公認心理師の会は、公認心理師が貢献できる社会的な問題にはどのようなものがあるか、当会として今後どのように貢献していくべきかを議論した。検討したテーマは下記の4つである。

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

c.公認心理師の会としてどのように国民に貢献したいか

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

当会は、1)医療部会、2)教育・特別支援部会、3)司法・犯罪・嗜癖部会、4)産業・労働・地域保健部会、5)福祉・障害部会の5つの専門部会からなるが、各部会で上の4点を議論した。これらの結果は、本文書の後半に掲載した。

ここでは、まず、各部会の見解をまとめて、当会の全体の活動方針を示したい。

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

 現在、わが国のメンタルヘルス(心の健康)の維持増進は大きな社会的課題となっている。ストレスやうつ病などの精神疾患は国民の幸福度を下げる大きな要因であり、また、自殺、産後うつなどの周産期の心理的問題、犯罪、児童虐待、ギャンブル依存やアルコール依存といった多様な社会問題が国民の不安を高めている。また、コロナ禍が続くことにより、心の不調、不安、抑うつ、攻撃性などが強まっている。5分野ごとにみてみると、さまざまな心の問題が浮かび上がってくる。

1)保健医療分野

医療分野では、心の健康に関する情報の氾濫(不適切な健康情報の流布)、医療における地域間格差、精神科医療における心理支援の乏しさ、がんなどの身体疾患に対する心理支援の不十分さなどが問題となっている。

2)教育分野

教育分野で問題になっているのは、子どもの自殺、自然災害等の増加に伴う心の危機、児童虐待の増加、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う子どもの生活習慣の変化、保育所・幼稚園から小学校への移行に伴う問題、教職員のメンタルヘルスの問題、GIGAスクール構想に基づく子どもの生活習慣の変化、ロシアのウクライナ侵攻に伴う難民および関係者に対する心理学的支援などである。以上のような支援活動において、エビデンスに基づいた支援が不十分である点も問題である。

3)司法・犯罪分野

司法・犯罪分野では、犯罪の再犯の防止、非行対策、わいせつ教員への対策、犯罪の被害者への支援などが大きな問題となっている。また、嗜癖分野では、違法薬物、アルコール依存、多量飲酒、インターネット依存、ギャンブル依存などが大きな問題である。

4)産業・労働分野

企業や組織で働く人々においては、働き方の急速な変化・多様化が進み、プラスの面がある一方で、メンタルヘルスの悪化といったマイナスの面も出てきている。従業員個人には自律(セルフコントロール力)がいっそう求められ、そのため企業は多様なニーズを持つ従業員をどのように束ねてワーク・エンゲイジメント(仕事への関与)を高めていくかといった心理的課題が重要になっている。

5)福祉分野

福祉の分野には、児童福祉、障害者福祉、高齢者福祉などが含まれており、児童虐待における心理支援、知的障害のメンタルヘルスケア、発達障害児の早期療育、障害者就労の支援などが大きな課題となっている。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

 上のような問題の解決に向けて、国家資格である公認心理師は努力しており、その貢献が期待されている。

公認心理師とは、公認心理師法によると、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、①心理アセスメント、②心理的援助(相談・助言・指導)、③関係者への心理的援助、④心の健康教育(心の健康に関する知識の普及を図るための教育や情報提供)といった仕事をおこなう。

1)保健医療分野

医療保険制度の診療報酬の中に公認心理師が位置づけられ、チーム医療の一員として、国民の心身の健康に大きく貢献できるようになったことは、国家資格の大きな利点である。また、心の健康情報の氾濫に対しては、公認心理師は「心の健康教育」の専門家として、社会に対して正確な知識を普及することに努めている。また、精神科治療における心理支援の乏しさと地域間格差に対しては、公認心理師はコミュニケーションの専門家として、医療サービスへのアクセスそのもののへの支援もおこなっている。公認心理師の大きな特徴は、心の不健康な部分への介入とともに、「健康的」な部分に対しても働きかけることである。公認心理師は研究活動のスキルもあるので、つねに医療サービスの拡大・向上に努めている。

2)教育分野

教育分野では、公立の学校に配置されているスクールカウンセラーの中心として公認心理師が位置づけられ、児童生徒および保護者、教職員のメンタルヘルスに対する働きかけが可能となった。公認心理師は「心の健康教育」の専門家として、子どもの心の健康に関して正しい知識の普及を図るため、教育及び情報提供に努めている。また、アセスメントや心理支援の専門家として、ケースフォーミュレーションに基づく子ども一人ひとりに合わせた支援計画を立案し実施している。

3)司法・犯罪分野

 司法・犯罪分野では、再犯防止や再非行防止において、公認心理師がエビデンスにもとづく処遇をおこなうことによって成果をあげている。わいせつ教員対策においても、こうした再犯防止の技能が貢献している。犯罪被害者への支援においても、公認心理師は、心理支援の専門職として大きく貢献できる。嗜癖分野では、認知行動療法を始めとする心理療法が最も有効な対策となっており、公認心理師が大きく貢献している。

4)産業・労働分野

 労働環境が変わる中で、従業員はストレスマネジメントをおこなうことが重要になってくるが、ストレスマネジメントの支援こそは公認心理師の得意な仕事である。企業のストレスチェックの実施者として公認心理師が新たに指定されるなど、職場のストレス軽減において公認心理師が大きく貢献できるようになった。また、仕事と生活(病気、育児、介護など)の両立の支援も公認心理師が貢献できるスキルである。また、公認心理師は、従業員の心身の不健康を防ぐメンタルヘルス対策だけでなく、仕事へのモチベーションやワーク・エンゲイジメント(仕事への関与)を高めることについても貢献できる。また、従業員の研修方法についても、エビデンスのあるサービスの情報提供をおこなうことができる。

5)福祉分野

児童虐待における心理支援では、公認心理師は、子どもや施設の集団および関連機関からの情報の的確なアセスメント、心理療法、家族支援が期待されている。発達障害児の早期療育では、療育プログラムの実施、保護者の療育への適切な関わりの支援、応用行動分析に基づく集中性をもった個別介入などで公認心理師が貢献している。障害者就労では、「働く障害」となる行動問題の改善、再発予防に向けた環境の調整や合理的配慮事項の検討などで公認心理師が貢献している。

c.公認心理師の会としてどのように国民に貢献したいか

 以上のような高度専門職業人として活躍できる深い専門知識と技能を有する公認心理師をめざして、一般社団法人 公認心理師の会が創設された。当会の創設理念は次のようなものである。

科学者-実践家モデル:科学者としての客観的知識や研究能力と、実践家としての実務能力や人間性の両方を兼ね備えた高度専門職業人をめざす世界標準の考え方。

エビデンスに基づいた実践:エビデンス(科学的根拠)にもとづいた専門家としての実践活動。

当会は、職能団体として、公認心理師実践におけるこれらの理念の普及と啓発を推進しており、下記のような活動で、国民のニーズに応えうる公認心理師の資質向上に努めている。

公認心理師の各分野のコンピテンスの確定

 5分野の専門部会は、活動の成果をもとに、その分野の公認心理師の活動に必要とされる分野別コンピテンス(知識と技能)のリストを作成している。また、5分野を横断する「共通コンピテンス」も作成し、科学者-実践家モデルなど、会が推奨する公認心理師像の基本理念を具体化した。研修会や専門資格制度はコンピテンスリストにもとづいて行われる。こうしたコンピテンスにもとづく事業が会の特徴である。

国家資格取得後の研修制度

 公認心理師法43条では、公認心理師は知識と技能の向上に努めなければならないという資質向上の責務がある。国家資格取得後の研修をどのように本格化させるべきは、公認心理師制度の大きな検討課題となっている。当会は、コンピテンスリストにもとづき、研修会(ワークショップ)を毎年多数開催している。これによって、ひとりひとりの公認心理師が自己研鑽を積むことができるようにサポートしている。この事業は、これまで毎年、厚生労働省および文部科学省から後援をいただいている。

上位専門資格の認定

 コンピテンスリストにもとづき、一定のレベルに達した公認心理師に分野ごとの専門公認心理師の資格を認定する。こうれにより、国民が安心して頼れる公認心理師のコンピテンスの質を保証する。公認心理師にとって、上位専門資格は国家資格取得後の公認心理師の学修と自己研鑽の道筋を示している。

エビデンス(科学的根拠)の情報発信

心の健康について不適切な健康情報が流布して問題になっているが、公認心理師は「心の健康教育」の専門家として、適切な情報を提供する義務がある。当会は、エビデンス(科学的根拠)がしっかりした心理支援や心の健康に役立つ情報を発信している。

 各専門分野の活動方針をまとめると、次のようになる。

1)保健医療分野

医療分野における当会の活動は3つの柱からなる。第1は、高い専門性を持つ公認心理師の養成であり、この分野で働く公認心理師のコンピテンスを明確にして、研修や専門資格認定をおこないたい。第2は、情報発信であり、効果が認められている心理支援の知見や、心の健康に関する役立つ情報を発信する。第3は、医療現場に役立つ新たなエビデンス(科学的根拠)の構築である。

2)教育分野

この分野でも、当会は「科学者-実践家モデル」を重視し、科学的根拠のある支援を開発し実施していくことを重視する。学校教育における日常生活の場で子どもや教職員、保護者等に対する「エビデンスに基づく情報提供」を確立していきたい。

3)司法・犯罪分野

司法・犯罪分野では、再犯防止の活動において、その中心はエビデンスに基づく実践であり、当会の理念と活動が大きく貢献できる。また、被害者支援では、当会は被害者心理の理解や支援の実践についての研修会を公認心理師に対して開催している。嗜癖分野においても、エビデンスに基づいた心理療法の実施、アフターケア、他専門職との連携などついて、公認心理師の研修をおこなう。また、国民に対する啓発活動を積極的に実施する。

4)産業・労働分野

まず産業・労働・地域保健分野で働く公認心理師が少ないので、研修などを通して育成したい。また、企業内で公認心理師が役立つことがまだ知られていない現状なので、企業で公認心理師が活用できることを広く企業に発信していきたい。また、企業が多様な人材を受け入れるようになり、ダイバシティ&インクルージョンが重要となっているが、それが生産性向上などにどんな影響を与えるかを調べる効果検証にも力を入れていきたい。さらに、公認心理師のサービスの内容について、従業員に対する情報提供や発信の方法も考えていきたい。

5)福祉分野

福祉の現場で適切なケアができる公認心理師を育てるために、当会は、コンピテンスの明確化と研修会をおこなっている。児童虐待における心理支援、知的障害のメンタルヘルスケア、発達障害児の早期療育について、エビデンスに基づくアプローチを中心に、研修会をおこない、社会への情報発信をおこなっている。障害者就労について、当会は、有効性が期待される応用行動分析や認知・行動療法などの科学的心理学に基づく研修会をおこない、スキルアップの支援を行っている。また、ひきこもり、認知症ケア、インクルーシブ教育などにも対応している。

6)公認心理師の倫理と職責

当会の倫理・職責・関連法規委員会では、公認心理師の倫理と職責についての活動方針をまとめた。これは本文書の後半に掲載されている。委員会では、当会の理念にもとづいて、倫理綱領を作成している。また、コンピテンスの明確化、研修会の充実、上位専門資格を通して、公認心理師の職責のスキルアップをはかる。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

 

上に述べたような社会的問題の解決に向けて、公認心理師ひとりひとりが努力し自己研鑽を深めているが、公認心理師制度の充実のために、ぜひ政治や行政の方々にご助力をお願いしたい。

常勤職の少なさ 非常勤職の多さ

 国家資格ができてまだ日が浅いこともあり、常勤職を持つ公認心理師が少なく、国家資格保有者としての生活は苦しいのが現状である。常勤職を持つ公認心理師の割合は全体で58%であり、他は非常勤職だけで生活している(日本公認心理師協会、2021)。5分野ごとにみると、常勤職を持つ割合は、保健医療分野53%、教育分野22%、福祉分野50%、司法・犯罪分野73%、産業分野41%となっており、とくに教育分野で低い。常勤職と非常勤職だけの人を較べると、非常勤職だけの人は年収が200万円くらい低い。

職域の拡大

 前述のように、公認心理師は、社会の中のいろいろな場面における職域が拡大したが、さらにいろいろな分野で活躍できる能力を持っている。従来のカウンセリングや心理テストといった心理職の活動にとどまらず、例えば、官庁や地方自治体におけるメンタルヘルスを包括する行政官など、5分野のいろいろな領域において公認心理師を活用していただくことなどをお願いしたい。

1)保健医療分野

 この分野においては、まず診療報酬の拡大をお願いしたい。公認心理師の活動の診療報酬、チーム医療活動への加算や施設基準への公認心理師の明記などである。現状ではまだ項目数が少なく、診療報酬に十分な貢献ができているとはいえない。公認心理師への診療報酬が拡大すれば、国民に対する貢献度は高まる。例えば、うつ病や不安症に対する認知療法・認知行動療法、心理検査、がん、糖尿病や循環器疾患など身体疾患患者への心理支援、精神科訪問看護、周産期のメンタルケア(産後うつ)などにおいて、公認心理師の業務の診療報酬化が望まれる。また、メンタルヘルスケアに関する基本法の整備、エビデンス以前に開始された旧制度との調整、法制度改革時に公認心理師との議論の場の設定なども望まれる。

2)教育分野

この分野では、まずスクールカウンセラーの常勤化をお願いしたい。スクールカウンセラーはほとんどが非常勤職であり、教育分野の公認心理師の常勤率は22%にすぎず、5分野で最も低い。常勤化されることによって、スクールカウンセラーは、子どもの日常的な情報収集および援助が可能となり、子どもの自殺、児童虐待等の予防の向上が期待できる。また、子どもだけでなく、保護者や教職員のメンタルヘルスに対する日常的な働きかけが強化され、問題の早期対応や予防的効果が期待できる。そのうえで、スクールカウンセラーに対するエビデンスに基づく実践能力向上の研修の制度化をお願いしたい。また、新たな「こども家庭庁」の設置において、公認心理師の活用をお願いしたい。さらに、生徒指導提要改訂、デジタル庁の教育データ利活用、夜間中学の設置などにおいても公認心理師への積極的活用を期待したい。

3)司法・犯罪分野

司法・犯罪分野では、再犯防止に関わる心理職の常勤化をお願いしたい。また、行政官庁間を横断した体制の構築や、官と民間との連携の仕組み作りが望まれる。また、少年非行や再非行の防止において、エビデンスに基づく成果を政策決定に生かしていただけるようにお願いしたい。また、被害者支援では、被害者や遺族の心理支援の経済的援助を期待したい。嗜癖分野では、専門機関の拡充、専門家の養成、研修などへの支援を検討いただきたい。

4)産業・労働分野

企業のストレスチェック制度をさらに効果的に推進するために、公認心理師の専門性を活かせるように、積極的な活用をお願いしたい。ストレスチェック制度における集団分析は、公認心理師が得意とするものなので、活用を明文化していただきたい。また、メンタル不調の従業員だけでなく、全ての従業員を対象にプラスの方にさらに高める支援(例:コーチング・リーダーシップトレーニングなどの人材開発支援)における公認心理師の活用にも力を貸していただきたい。

5)福祉分野

子どもの年齢によって担当部署の情報引き継ぎの問題が生じることがあり、子どもデータベースの構築においては、子供を中心とした制度設計をお願いしたい。また、障害児通所支援の在り方について、支援の類型化が提案されているが、それに当たっては、科学的根拠を重視した政策決定を期待したい。

4.各分野の課題と当会の活動方針

保健医療分野の課題と当会の活動方針

 医療部会

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

 心の健康に関する公衆衛生上の問題として、メンタルヘルスケアのニーズと供給のギャップがある。その背景にはさまざまな要因があるが、ここでは心の健康に関する情報の氾濫、そして提供されるサービスの地域間格差の問題をあげたい。コロナ禍が続く昨今、国民生活の孤立化が危惧される一方で、インターネットの活用も急速に広がっている。インターネット上にはメンタルヘルスに関する様々な情報が氾濫しており、不適切な健康情報や詐欺まがいの商材につながるものも認められ、適切なケアへの妨げになっている。また、有効なケアの存在を知ったとしても、その支援を提供している機関等がない場合や、そうした期間までのアクセス方法がわからない場合、ケアを受けることはできない。インターネットテクノロジーを活用した支援の発展もみられるが、そのリテラシーにも格差があり、必要なケアが必要なところに届いていない現状がある。

地域間格差の問題もあり、精神医療機関においては,地域によっては受診までに相当の期間を要するところもあるため、公認心理師を活用することが求められる。

 また心身の治療を担う医療現場の問題として、精神科治療における心理支援の乏しさがある。近年、公認心理師における心理支援が診療報酬として認められてきた。しかしながら、いまだ精神科治療においては薬物療法が中心であり、生活に支障を及ぼす心理・行動上の問題への対応は不十分と言わざるをえない。

また、身体疾患患者へのメンタルヘルスケアの乏しさについても問題である。がん患者に対する心理支援は進んできているものの、その他の身体疾患においてもメンタルヘルスケアの重要性は明らかであるが、実施できる医療機関は限られている。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

 国民全体に向けた貢献として、「国民に対する心の健康に関する正確な知識の普及」が第一に挙げられる。公認心理師は、その養成過程において精神医学はじめ、心理支援に関する基礎心理学の知見を学習する。また医療現場での実習が必須となっていることから、心の健康とその対応の原則について、現実的かつ科学的な知識を有している。

次に、公認心理師は5分野(医療・保健/福祉/教育/産業・労働/司法)にまたがる心理支援の専門資格である。そのため、先に述べた地域間格差はあるにせよ、医療以外の広い分野でも、心の健康に対する適切な支援に貢献できる。これらはメンタルヘルス不調の予防や悪化に対して非常に有効であり、広く国民の心の健康に貢献できるといえる。

 また、医療現場においては、患者が医療サービスを受ける際、もしくは医療者がサービスを提供する際に、さまざまな要因で困難が生じる場面も少なくない。そうした際に、公認心理師はまずコミュニケーションの専門家としてその困難をアセスメントして対応を検討し、医療サービスが患者に届くものとなるよう工夫して対応することができる。

また、疾病の治療が主な役割である医療機関においては苦痛の軽減が中心である一方、心理支援では健康的な部分へのアプローチにも注力した対応を行うことが可能である。そのため、たとえば慢性疾患へのケアも担う医療機関においては、多職種連携・多機関連携のもとより全人的な支援に貢献できる。

最後に、公認心理師のほとんどは修士論文を執筆して大学院修士課程を修了することから、一定の研究スキルを有している。それらは目に見えにくい心の健康について、客観的・定量的な視点で明確にとらえ、それに基づく心理支援につながるものであり、複雑な医療現場の意思決定にも貢献できると考えられる。そして、臨床実践の中からリサーチクエスチョンを見出し、よりよい医療サービスや心理支援を展開していくための研究活動に展開していくことも可能となる。


c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

 「心理的ケアが必要とされた時に適切なケアを届けられる環境」を構築することによって国民に貢献したい。すなわち、それは、専門職としてエビデンスに基づく心理支援を国民に届けることである。この目標に向け、公認心理師の会は、①専門家としての生涯にわたる修練環境の提供とさらなる高い専門性を持つ公認心理師の養成、②情報発信、そして③新たなエビデンスの構築の3つの活動を行っていく。

まず、高い専門性を持つ公認心理師の養成について、これまで当会は,医療分野における心理支援に求められるコンピテンス(能力)を具体的に整理してきた。その項目に基づき研修や資格認定を行うことで、医療で働ける公認心理師の最低基準を担保することができ、エビデンスに基づく心理支援を患者やチーム医療活動に届けることにつながる。さらに、こうした環境を整えることが、公認心理師の生涯にわたる継続的な訓練となり、高い専門性に基づく心理支援の提供が促される。

次に、情報発信である。医療分野の臨床や研究に従事する当会から、効果が認められている心理支援の知見や、心の健康に関する役立つ情報などを発信していくことも検討している。

そして最後に、新たなエビデンスの構築として、臨床研究の推進や精査など、日々の公認心理師の実践を研究としてまとめるサポートなども検討していく。


d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

 これまで以上に、公認心理師による心理支援の診療報酬化を強くお願いしたい。また、チーム医療活動の加算や対人援助関係の事業における施設基準としても、公認心理師の参画を検討していただきたい。そうすることで雇用が広がることが考えられ、心身の治療を求めて病院を訪れる国民の、心の健康に貢献できる。

また、メンタルヘルスケアに関する基本法の整備も引き続き進めていっていただくとともに、エビデンス以前に定着した旧制度との調整も検討いただきたい。

最後に、それら診療報酬や法制度に関して、心理支援の専門家集団である我々と議論する場の設定を期待したい。

教育分野の課題と当会の活動方針

教育・特別支援部会

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

教育分野における国民の心の健康上の課題としては、(1)子どもの自殺、自然災害等の増加に伴う「緊急支援」の必要性の増加、(2)児童虐待の増加、(3)新型コロナウイルス感染症の流行に伴う子どもの生活習慣の変化、(4)保育所・幼稚園から小学校への移行支援と多職種連携、(5)教職員のメンタルヘルス、(6)GIGAスクール構想に基づく子どもの生活習慣の変化、等が挙げられる。また、喫緊の課題としては、ロシアのウクライナ侵攻に伴う、ウクライナ難民および関係者に対する心理学的支援、そして、戦争報道によって生じた不安やトラウマ症状への心理学的支援が必要となる。

 このように、子どもの心の健康の問題は多様化、深刻化しているものの、教育分野で行われる支援はこれまでの慣例に基づいて実施されることが少なくなく、エビデンスに基づいた支援が十分に実施されているとは言い難い。例えば、学校の校内研修ひとつをとっても、「前年通り」と計画するのが慣例となっていることも少なくない。そのため、エビデンスに基づく実践の普及、また、エビデンスを蓄積する体制の構築も課題と言える。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

近年は、新型コロナウイルスの流行やロシアによるウクライナ侵攻等、国民の日常生活の基盤を覆すような事案が続いており、子どもへの心理的影響が強く懸念される。そのような中で、公認心理師には、幅広い対象に対する「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供」にさらなる貢献が期待される。その一方、日常生活におけるさまざまな出来事が子どもに及ぼす心理的影響は等しく一様ではない。そのため、幅広い対象に対する心理学的支援はもちろんのこと、個々の状態を理解するためのアセスメントや、ケースフォーミュレーションに基づく子ども一人ひとりに合わせた支援計画の立案および実施も期待される。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

上述した「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供」のためには、公認心理師には、学校教育における日常生活の場で子どもや教職員、保護者等に対する「正しい情報の提供」が一層求められる。公認心理師の会が目指す「科学者-実践家モデル」「エビデンスに基づく情報提供」によって、国民の心の健康に資する根拠のある支援、情報の提供に貢献したい。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

教育分野における主たる心理職であるスクールカウンセラーは、その多くが非常勤職員としての雇用であり、他の非常勤心理職と掛け持ちせざるをえない状況が続いている。このことがスクールカウンセラーとしての業務に専念することを困難としている可能性が考えられる。そのため、スクールカウンセラーの常勤化の実現をお願いしたい。スクールカウンセラーの常勤化によって、子どもの日常的な情報収集および援助が可能となり、子どもの自殺、児童虐待等の予防の向上が期待できる。

その一方で、平成7年(1995年)のスクールカウンセラー導入以降、配置校は年々増加しているものの、子どもの不登校や問題行動等の改善に結びついているわけではない。この一因として、スクールカウンセラーの力量不足が考えられる。子どもの不登校や問題行動等に対する支援においては、受容、共感といった基本的傾聴のみならず、環境調整や多職種連携等の積極的な行動姿勢が求められる。しかしながら、スクールカウンセラーの中には、相談室の中にとどまり続け、子どもの話を受容、共感することだけに徹する者も少なからず存在する。そのため、スクールカウンセラーの能力には、今もなお、ばらつきがあると言わざるをえない。このような状況を改善するため、スクールカウンセラーに対するエビデンスに基づく実践能力向上の研修機会を制度化することをお願いしたい。

また、現在設置が検討されている「こども家庭庁」は、子どもや子育て当事者の視点を政策に反映することを目指している。公認心理師は、こども家庭庁が掲げる「子どもや子育て当事者のメンタルヘルス向上および虐待やいじめの防止」に向けて、日々、研究および臨床実践に従事している。公認心理師によって積み上げられたこれらのエビデンスを政策決定に生かしていただけるような体制の構築をお願いしたい。

加えて、現在、整備が進められている生徒指導提要の改訂や、デジタル庁が進める教育データ利活用、夜間中学の設置においても、公認心理師が積極的に参画できる体制の構築をお願いしたい。

司法・犯罪分野の課題と当会の活動方針

司法・犯罪・嗜癖部会

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

 司法・犯罪分野においては、「再犯防止」の取り組みが重要な課題とされており、性犯罪や薬物犯罪を中心に心理学的アプローチが行われている。このような取り組みの多くはエビデンスに基づき取り組まれており、一定の成果をあげているが、さらなる効果の向上やスルーケアを行うための体系化が課題とされている。

また、子どもの家庭内での被虐待体験や学校等でのいじめの被害体験を背景として、トラウマを含むその影響への適切な対応は以前にも増して、家庭や学校における大きなテーマになっている。

さらに、いわゆる「わいせつ教員対策法」の施行に伴い、児童生徒を性暴力から守るための取り組みも喫緊の課題である。

被害者支援では、支援機関における性犯罪・性暴力や児童虐待の相談は年々増加している。犯罪被害者等基本計画に基づき犯罪被害者支援の枠組みは整備されつつあるが、犯罪被害が人の心にもたらす影響は深刻であり、一層の充実が必要である。

嗜癖分野については、上述の違法薬物対策に加えて、飲酒、喫煙、インターネット依存、そしてIR推進法に伴うカジノ設置を見すえたギャンブル依存への嗜癖対策などは、国民の心身の健康を守るうえで非常に重要な課題であり、コロナ禍においてもその対策の重要性が指摘されている。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

 再犯防止を目的とした心理学的アプローチは、心理専門職としての知識と技能をもった公認心理師が支援スタッフに加わることによって、より一層の効果の向上に貢献することができる。また、こころの問題が「非行」として現れる少年に対して、各処遇現場等の公認心理師がエビデンスに基づく諸研究の成果等を駆使してその処遇に臨むことによって、再非行を防止することに寄与できる。

わいせつ教員対策においても、再犯リスク評価、再犯防止指導など、これまで司法分野で積み上げてきた技能を用いて貢献することができる。

被害者支援では、犯罪被害が人の心に与える影響は、トラウマ反応やうつ状態など様々である。公認心理師は心理支援の専門職として、トラウマ反応への適切な対応のみならず、被害者や遺族の人生を心理的に支える役割を果たすことができる。

嗜癖分野では、現時点で嗜癖に対する十分な効果を持つ治療薬は存在しておらず、認知行動療法を始めとする心理療法が最も有効な対策となっている。このため、公認心理師は「健康日本21(第二次)」の目標項目にも掲げられている多量飲酒者への支援や禁煙支援に効果的に取り組み、ひいては健康寿命の延伸、生活習慣病の防止、医療費削減等に寄与することができる。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

 再犯防止を目的とした心理学的アプローチの内容は、エビデンスに基づく内容で構成されている。公認心理師の会は、エビデンスに基づく取り組みを軸としており、研修機会の提供等を通してスタッフの育成等に貢献可能である。また、会員にとっては、自身の専門領域だけでなく、少年を巡る隣接領域の専門家が集う公認心理師の会での他会員との交流によって自身のスキルアップが図られ、より広い視点から研究や臨床実践を行うことができるようになることが期待できるため、国民の心身の健康に寄与できると考えられる。

被害者支援では、研究や臨床知見の積み重ねによって得られた、被害者心理の理解や心理支援の適切な実践について広く公認心理師に研修し、犯罪の被害に遭った国民が、日本全国どこであっても適切な心理支援が受けられるように努める。

嗜癖問題においては、医師、保健師、看護師など関連する専門職と連携しながら、十分にトレーニングされた公認心理師としての専門性を活かしながらエビデンスに基づいた心理療法の実施、アフターケアの実施などを通して、効果的な対策を講じるとともに、国民一般に対する啓発活動も積極的に実施したい。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

 再犯防止を目的とした心理学的アプローチに取り組む心理職の多くが非常勤雇用であり、資質の向上のためにスタッフの雇用の充実のための雇用の枠組みの拡大について検討をお願いしたい。

また、社会的なスルーケアを目指す際に、硬直化しがちな縦割り行政の改善や民間との連携の仕組み作りに取り組んでいただきたい。具体的には、刑事施設が法務省管轄であり、社会内の受け入れ施設が厚生労働省管轄であることに起因する課題が多いため、省庁を横断した有機的なつながりを可能とする制度設計をお願いしたい。

また、公認心理師は、日々少年のメンタルヘルスの向上や再非行防止に向けて、日々、研究や臨床実践に従事しているため、そのエビデンスに基づく成果を臨機応変に政策決定に生かしていただけるような体制の構築をお願いしたい。

被害者支援では、犯罪被害という理不尽な経験が、被害者や遺族の経済状況も悪化させている。その中で対価を払って心理支援を受けることは非常に困難である。補助金等で民間支援機関等での心理支援を充実させ、犯罪被害者等がより支援を受けやすい環境となるよう求めたい。

嗜癖分野では、公認心理師に限らずこの分野の専門家の数が十分ではないこと、および治療機関が問題発生数に比して著しく少ないことが課題である。専門機関の拡充、専門家の養成、研修などへの支援をご検討いただきたい。

産業・労働分野の課題と当会の活動方針

産業・労働・地域保健部会

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

働き方の急速な変化

産業・労働の分野では、少子高齢化による労働力人口の減少に加え新型コロナウイルス感染症の影響で、働き方の多様化が加速的に進み、地域や業種、企業規模によって状況は異なるものの、全体としては在宅勤務・テレワークをしている従業員が増え、新しい働き方の一定の定着が見られる。

働き方の多様化と適応の差異

今後もコロナ禍の以前に働き方に戻らずに、全員出社を前提としないオフィスに変更する企業、出社と在宅を組み合わせたハイブリット型や、週休3日の勤務スタイルも選択できる企業の出現など、就業場所や拘束時間などの柔軟性も高まっている。このような環境変化の中で、従業員側は在宅勤務中心での通勤時間減少による睡眠習慣の改善や、プライベートの時間の利活用など、プラス面の適応がみられている一方で、物理的・人的資源の不足や、アクセスの制限によるメンタルへルスの悪化といったマイナス面の影響(例:入社年次が短い若年層)もみられるなど、適応に差が生じている。

従業員個人の自律と企業・組織のワーク・エンゲイジメント向上の課題

多様な働き方が定着することは、時間や場所などの自由度が高まる一方で、従業員には、より自律的に仕事を進め、心身の健康を保つセルフコントロール力が求められている。また企業は多様なニーズを持つ従業員をどのように束ね、ワーク・エンゲイジメントや生産性を高く働ける環境を整えていくのかという新たな課題が生じている。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

さまざまな環境変化への適応支援(ストレスマネジメント)

働き方やライフスタイルの変化など適応が必要な場面において、公認心理師は、心理職の強みの一つであるストレスマネジメントの知識提供や個別事例に対する相談対応で貢献できる。ストレスとの付き合い方を身に着けることは、新たな環境変化への適応でも応用可能であり、不安や緊張を伴うような状況においても適応を支えることができる。また、従業員個人のストレス対策だけでなく、集団のストレス状態の分析などを通して、組織の職場環境面の改善にも貢献ができる。

多様な従業員の活躍推進支援(両立支援)

仕事との両立の難しさを感じやすい病気・育児・介護など、仕事に影響を与えるプライベートな要因についても、公認心理師は、従業員個人の決断に寄り添い、必要な資源につなげる専門的な支援と、企業・組織が対応可能な配慮についての検討支援を通じて従業員が離職や不調による休職に至らずに働き続けるための貢献ができる。また他領域の専門家との円滑な連携においても心理職の強みを活かした支援ができる。

従業員個人と企業・組織のワーク・エンゲイジメント向上に向けた支援

公認心理師は、従業員の心身の安全と健康をターゲットとするリスク管理の観点でのメンタルへルス対策だけでなく、モチベーションやワーク・エンゲイジメント向上へも貢献できる。従業員個人には、やりがいや働き方、今後のキャリアについて、立ち止まり、振り返り、自分で選択していくといったようなプロセス支援を通じてモチベーションを支え、企業にはワーク・エンゲイジメント向上施策についての検討と実施などの支援で貢献ができる。

エビデンスのあるメンタルへルスサービスの情報提供

出社を前提としない働き方を選択している企業のメンタルへルス対策などでは、必ずしも集合研修などではなく、時間や場所を選ばない自由度の高いデジタルツールなどを使った情報提供が求められている。公認心理師は、アクセスがしやすく良質なエビデンスのあるメンタルへルスサービスの効果検証や利活用のしやすさの評価などの情報提供においても貢献できる。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

産業・労働・地域保健領域で活躍する心理職の育成

様々な課題への貢献が求められているものの、本領域で働く心理職は、1割未満と少数派であり、未経験から就業して経験を重ねることができる環境が乏しく、本領域で働きたい心理職の育成が進んでいるとは言えない。したがって、当会は、コンピテンスリストに基づく研修などを通じて、本領域で働きたい心理職の育成と同時に、活躍できる職域を広げていきたい。

産業・労働・地域保健領域で貢献できる活動の発信

本領域に携わる産業保健スタッフや人事労務担当者などとの多職種連携において、心理職の貢献ができることが認識されず、心理職の役割や位置づけが曖昧なケースがある。また、企業や組織のニーズによって求められる活動の範囲が異なるため、活動が一律ではなく定型化しづらい現状もある。そこで、当会は、実際の心理職の活用事例の紹介などを通じて、本領域で心理職が活用できる場面の啓蒙活動についても、行っていきたい。

ダイバシティ&インクルージョンへの対応

一般に、企業における従業員支援では、多様な個人ニーズにこたえることが従業員のワーク・エンゲイジメントや生産性向上などにどのような影響をもたらすのかといった効果検証の視点が不可欠である。このため、当会は、個人と組織の両側面から支援に対する効果検証や相談対応が出来る本領域の心理職に、従業員個人も企業・組織へもスムーズにアクセスできる環境を整えていきたい。

従業員への安全な情報提供やサービス内容の発信

従業員が気軽に相談しやすく、クオリティを担保したサービスについて、中立的な評価に基づく情報提供も検討していきたい。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

産業・労働・地域保健領域での心理職の活用の明文化

本領域において公認心理師の活動が法令に明記されているストレスチェック制度においても、位置づけが他の専門職と同じで、メンタルヘルスの強みを持つ公認心理師の専門性を活かしきれていない。ストレスマネジメントなどに強みを持つ心理職の活用を積極的に行うことによって、定着したストレスチェック制度をさらに効果的に推進していくことにつながると考えられる。また集団分析のデータに基づく支援などでも、活用を明文化することによって専門性の活用に大きな力になると考えられる。また、今後さらに求められるであろう、メンタル不調の従業員だけでなく、全ての従業員を対象にプラスの方にさらに高める支援(例:コーチング・リーダーシップトレーニングなどの人材開発支援)は、従来の文脈とは異なるため、メンタルヘルスの専門性を持った新たな担い手が必要である。そこで、多様なニーズへの心理職の活用の啓蒙に力を貸していただきたい。

オンラインの利活用支援:デジタルメンタルへルスの評価と情報発信支援

オンラインでのデジタルの様々なサービスを安心して使える環境を整えるために、厚生労働省のデジタルメンタルヘルス承認のパートナー組織と位置づけていただくことや中立的な立場での評価サイトの立ち上げ運営にかかる行政からの補助支援などを求めたい。

福祉分野の課題と当会の活動方針

福祉・障害部会

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

 福祉分野には、児童福祉、障害者福祉、高齢者福祉などが含まれている。

児童虐待

 全国の児童相談所による児童虐待相談対応件数は年々増え、令和2年度には20万5044件で過去最多であった。虐待を理由とした一時保護ののち、約20%の子どもは児童福祉施設に入所することになる。児童福祉施設には児童養護施設と児童心理治療施設などがあり、虐待を受けた子どもたちが生活をしている。そこでは、地域の学校や施設に併設された学校に通いながら子どもたちは暮らしており、心理職のほか多職種が連携し、子どもたちを支えている。

知的障害のメンタルヘルスケア

 知的障害は、知的機能と適応行動の両方に制限があり、なおかつ発達期に生じる。発生率は人口の約1%であり、知的障害のある子どものメンタルヘルス不調の発生率は、知的障害のない子どもの3~4倍も高い。このような状況にあるものの、知的障害のある人のメンタルヘルスのアセスメントは不十分となりやすく、知的障害のある人への心理支援は適さないと判断されやすい。しかし、知的障害とメンタルヘルス不調がある子どものうち、3分の2は成人になってもメンタルヘルスの不調を抱え続けるという現状があり、メンタルヘルスの予防および早期発見・早期介入は、重要な課題である。

障害者就労

障害のある方の労働可能人口は377万人で、実際に働いている人はその14%という状況にある。この問題に対して、障害者総合支援法に基づく就労移行支援事業などのほか、障害者職業センターによる職業リハビリテーション、障害者就業・生活支援センターによる就労と生活の一体的な支援などの就労支援サービスが利用されているが、いずれにおいても精神障害や発達障害のある方の利用が増えている。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

公認心理師に求められる役割は、当事者への心理的な対応だけでなく、福祉施設、医療施設、学校など関連する支援者への対応も含まれる。

児童虐待における心理支援

児童養護施設等における心理職は、「被虐待児への専門的な治療」と「人手不足への手当」という2つの求めに応じて配置されてきた経緯がある。その役割は、養育の1番の担い手であるケアワーカーをチームの一員としてサポートすることにある。そのために、公認心理師は、子どもや施設の集団および関連機関からの情報の的確なアセスメント、心理療法、家族支援を実践する。

発達障害児の早期療育

発達障害児には、社会性や発達的観点を重視した療育プログラムの重要性が指摘されてきた。さらに、保護者の療育への適切な関わりを支援することや、応用行動分析に基づく集中性をもった個別介入を行うことも重要であり、公認心理師が貢献できる。

障害者就労

障害のある方の就労支援については、個と環境の相互作用として生じた「働く障害」となる行動問題を改善し、さらに再発予防に向けた環境の調整や合理的配慮事項の検討を行うことが公認心理師に期待される。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

当会は、個人と環境の相互作用を適切に見立て、エビデンスに基づくアプローチを選択し、公認心理師のスキルを用いて介入していくことを重視している。

児童虐待における心理支援

児童虐待に対して公認心理師がその役割を果たすためには、大学院等で学んだ基礎を「個々の施設における文化や風土」に合わせて応用していくこと、「今いる子どもたちにとりあえずできることはなんだろうか」と考え行動する視点が大切となる。当会では、現場において適切なケアができる心理職を育てるための研修機会の提供や情報提供を行っている。

知的障害のメンタルヘルスケア

知的障害を持つ方のメンタルヘルスケアに関して、当会は研修機会の提供を行っている。テーマとしては、知的障害のある方のメンタルヘルスのアセスメント、ライフステージにおける心理的課題、障害の程度に応じた支援のあり方、二次障害や併存症の理解と対応、保護者への関わり方といったことが挙げられる。今後も、研修機会の提供を継続したい。

発達障害児の早期療育

当会は、発達障害児に対する応用行動分析の理論に基づいた実践的な療育技術や保護者支援、子どもの特性に合わせた課題構成の実際について学ぶ研修会を開催した。また、この早期療育モデルは、全国への実装が始まっており、当会はこのようなプロジェクトを後援している。

障害者就労

障害のある方の就労支援について、当会では、有効性が期待される応用行動分析や認知・行動療法などの科学的心理学に基づく就労支援の研修機会を提供し、スキルアップの支援を行っている。

公認心理師の育成とネットワークづくり

以上に挙げた問題に加えて、ひきこもり、認知症ケア、インクルーシブ教育などにも対応してきた。

今後も幅広い課題に対応するには、公認心理師の育成とネットワークづくりが課題となる。また、福祉・障害領域において公認心理師に求められるコンピテンスを明らかにし、系統的な教育システム作りも課題となる。当会では、年2回の研修会、拡大部会ミーティングを地道に開催し、会員の資質向上に努めたい。また、年次総会におけるシンポジウムでは、社会問題に対して何が課題なのか、公認心理師がどのように貢献できるのかを何を示す機会を提供し、国民の心の健康の維持向上に向けて啓発活動にも努めていく。各方面からの支援や叱咤激励を頂きながら、活動を続けていきたいと考えている。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

子どもデータベースの構想について-子供を中心とした制度設計を-

これまで、管轄する省庁の違いにより分断されてきた子ども支援を、連続的に行えるように改革して頂きたい。例えば、発達障害は、生涯にわたり長期的な情報の引継ぎや支援が必要となってくることが多い。これまでは、未就学は保健や福祉、学齢期は教育、就労は福祉・・・などと各ライフステージでの分断があり、保護者への負担が大きい、支援情報の引継ぎ等が適切かつ十分になされないなどの課題があった。発達障害は、虐待や不登校、ひきこもりといった様々な社会課題の背景にひそむ要因でもあり、子どもデータベースの構築においては、「学習」「障害」という小さい単位で分断するのではなく、「子ども」を中心とした制度設計を行って頂きたい。それにより、経済困窮や心身の障がいなどの多様な困難を抱える子どもや家庭を、早期に発見し、アウトリーチやプッシュ型の支援が行えるようにしいくことで、公認心理師によるアプローチも、対処型から予防型に移行していくことが出来ると考える。

障害児通所支援の在り方について-科学的根拠を重視した政策決定を-

「障害児通所支援の在り方に関する検討会報告書」(令和3年10月)において、児童発達支援や放課後等デイサービスに関しては、「総合支援型」を基本とし、特定領域のプログラムに特化した支援のみを行う事業所の場合には、専門性の高い有効な支援を行う「特定プログラム特化型」の事業所として位置付ける方向性が示された。

こういった発達支援の類型化は、国内外のエビデンスをちゃんとまとめて「専門性の高い有効な支援」があるとは何かをあらかじめ定義して、議論を進めていくべきである。資格など人員配置などのハード面だけではなく、どういった障害の児童に対し、どういった支援が有効であるか、というソフト面についてきちんと検討し、科学的根拠に基づいた議論を進めていかなければ、支援の質の向上および個別最適化というあるべき発達支援の方向性からは乖離していくであろう。例えば、発達障害の1つである自閉症スペクトラムの早期支援においては、言語や社会性の発達、行動問題の軽減等に、応用行動分析に基づいた支援が有効であることが、国内外の数多くの研究によって示されてきた。これらの科学的根拠を政策決定に反映し、質の高い支援が生き残っていくような制度設計を行うことは、当事者の権利を重視し、利益を最大化するうえでも不可欠である。

公認心理師の倫理・職責の課題と当会の活動方針

倫理・職責・関連法規委員会

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

 公認心理師法第一条には「この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。」とある。昨今のコロナ禍のように未知の事態の到来、またダイバーシティ&インクルージョンが急激に進み、社会で共有される価値観や生活様式の多様化を極める中、国民の心は複雑な適応を迫られているといえる。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

公認心理師はこのような中で社会から求められる役割を自覚し、地域社会と連携しつつ、支援対象者およびその関係者を支援してゆく。さらに多職種連携による支援の意義と支援チームにおける公認心理師の役割について理解し、積極的に活動を行う。心理学と心理的支援について豊かな知識や技能を修得している専門職が公認心理師である。保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働当の活動分野において、支援対象者の安全を大前提としながら、支援対象者中心の意思決定を援助し、主体性を奪うことなく援助を提供してゆく。

また、自己研鑽とそれを続ける意欲及び態度を持つことも公認心理師に求められている責務であり、生涯教育であるという認識を持つのも公認心理師としてあるべき姿である。さらに自分自身だけでなく、支援対象者やその関係者への心の健康教育をおこない、次世代を担う人材の教育、スーパービジョンなど、教育を実施する意欲と技能をもつ継続性や波及性も重視している。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

こうした公認心理師に寄せられている強い期待と責務を果たすために、公認心理師の会はいくつかの重要な事業を推進している。

まず、公認心理師資格が誕生して間もないこの時期には、公認心理師とはどうあるべきかを唱え、議論する必要があるだろう。そこで、公認心理師資格をもつ者すべてのあるべき姿として,公認心理師の会の倫理綱領を作成している。当会は倫理綱領を広く公認心理師だけでなく国民に周知し、公認心理師にはそれを徹底させてゆく。

また、公認心理師としてはどのような資質や技能が求められるのかについて、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働のすべての活動領域において共通するコア・コンピテンシーを条文化した。心理学教育を受けてきた公認心理師はもとより、別の対人援助領域で活動してきた公認心理師に対しても、公認心理師としてのコア・コンピテンシーを定期的に学べるよう、研修制度を充実させてゆく。公認心理師は資格更新がないため、このコア・コンピテンシー研修を充実させることは意義深い。

最後は科学を重視する当会の態度を反映している。多くの有益な心理学的知見が産出されている中、心の健康と援助に関するエビデンスから支援対象者に最適な提供する技能を促進する。そればかりでなく、支援の発展や開発、実践における課題発見・解決能力の向上、心理学としての学術的知見やエビデンスの産出といった、科学者-実践家としての公認心理師の専門性をさらに高めるための研修を充実させる。ただし、支援対象者の個別性や多様性を尊重してこそ良好なコミュニケーションをとることができるため、科学性を重視しつつ、人間に対する豊かな理解と人間性をはぐくむ方向づけを行う点も公認心理師の会の特色と言えるだろう。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

公認心理師の会は国民の心の健康の保持増進に貢献するために、公認心理師を対象とした上記の各種事業および国民に対する啓発活動等を継続しておこなってゆく。しかし、公認心理師法やコアカリキュラムは公認心理師の教育や活動の質に直接連動する大きな要因であるといえる。改正する必要があると判断されるならば、議員連盟の先生方の助力をいただきたい。