公認心理師の会

教育・特別支援部会の課題・活動方針

教育分野の課題と当会の活動方針

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

教育分野における国民の心の健康上の課題としては、

  1. 子どもの自殺、自然災害等の増加に伴う「緊急支援」の必要性の増加、
  2. 児童虐待の増加、
  3. 新型コロナウイルス感染症の流行に伴う子どもの生活習慣の変化、
  4. 保育所・幼稚園から小学校への移行支援と多職種連携、
  5. 教職員のメンタルヘルス、
  6. GIGAスクール構想に基づく子どもの生活習慣の変化、等が挙げられる。また、喫緊の課題としては、ロシアのウクライナ侵攻に伴う、ウクライナ難民および関係者に対する心理学的支援、そして、戦争報道によって生じた不安やトラウマ症状への心理学的支援が必要となる。

このように、子どもの心の健康の問題は多様化、深刻化しているものの、教育分野で行われる支援はこれまでの慣例に基づいて実施されることが少なくなく、エビデンスに基づいた支援が十分に実施されているとは言い難い。例えば、学校の校内研修ひとつをとっても、「前年通り」と計画するのが慣例となっていることも少なくない。そのため、エビデンスに基づく実践の普及、また、エビデンスを蓄積する体制の構築も課題と言える。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

近年は、新型コロナウイルスの流行やロシアによるウクライナ侵攻、大規模災害等、国民の日常生活の基盤を覆すような事案が続いており、子どもへの心理的影響が強く懸念される。そのような中で、公認心理師には、幅広い対象に対する「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供」にさらなる貢献が期待される。その一方、日常生活におけるさまざまな出来事が子どもに及ぼす心理的影響は等しく一様ではない。そのため、幅広い対象に対する心理学的支援はもちろんのこと、個々の状態を理解するためのアセスメントや、ケースフォーミュレーションに基づく子ども一人ひとりに合わせた支援計画の立案および実施も期待される。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

上述した「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供」のためには、公認心理師には、学校教育における日常生活の場で子どもや教職員、保護者等に対する「正しい情報の提供」が一層求められる。公認心理師の会が目指す「科学者-実践家モデル」「エビデンスに基づく情報提供」によって、国民の心の健康に資する根拠のある支援、情報の提供に貢献したい。また、スクールカウンセラーをはじめとする教育分野で活躍する公認心理師が、安定した生活基盤を確保した上で、自身の質の向上に向き合えるようになるための環境づくりや、それに関する実態調査などを行う。これによって、教育分野の公認心理師が抱える課題等について明らかにしていき、必要に応じて適切な働きかけを行っていきたい。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

教育分野における主たる心理職であるスクールカウンセラーは、その多くが非常勤職員としての雇用であり、他の非常勤心理職と掛け持ちせざるをえない状況が続いている。このことがスクールカウンセラーとしての業務に専念することを困難としている可能性が考えられる。そのため、スクールカウンセラーの常勤化の実現をお願いしたい。スクールカウンセラーの常勤化によって、子どもの日常的な情報収集および援助が可能となり、子どもの自殺、児童虐待等の予防の向上が期待できる。

その一方で、平成7年(1995年)のスクールカウンセラー導入以降、配置校は年々増加しているものの、子どもの不登校や問題行動等の改善に結びついているわけではない。この一因として、スクールカウンセラーの力量不足が考えられる。子どもの不登校や問題行動等に対する支援においては、受容、共感といった基本的傾聴のみならず、環境調整や多職種連携等の積極的な行動姿勢が求められる。しかしながら、スクールカウンセラーの中には、相談室の中にとどまり続け、子どもの話を受容、共感することだけに徹する者も少なからず存在する。そのため、スクールカウンセラーの能力には、今もなお、ばらつきがあると言わざるをえない。このような状況を改善するため、スクールカウンセラーに対するエビデンスに基づく実践能力向上の研修機会を制度化することをお願いしたい。

また、「こども家庭庁」においては、子どもや子育て当事者の視点を政策に反映することを目指している。公認心理師は、こども家庭庁が掲げる「子どもや子育て当事者のメンタルヘルス向上および虐待やいじめの防止」に向けて、日々、研究および臨床実践に従事している。公認心理師によって積み上げられたこれらのエビデンスを政策決定に生かしていただけるような体制の構築をお願いしたい。

加えて、現在、整備が進められている生徒指導提要の改訂や、デジタル庁が進める教育データ利活用、夜間中学の設置においても、公認心理師が積極的に参画できる体制の構築をお願いしたい。