公認心理師はどんな仕事をしているのか、なぜ国家資格となったのかなどについて、Q&A形式で紹介しましょう。
Q 公認心理師はどのような仕事をするのですか?
A 公認心理師法第2条では、公認心理師は以下の4つの仕事をおこなうと定められています。なお、公認心理師法では、心の問題で援助を必要としている人々を「要支援者」または「支援対象者」と呼んでいます。
①心理アセスメント
要支援者の心理状態を観察し、その結果を分析することです。要支援者の話をていねいに聴いて、どのようなことで悩んでいるのかを明らかにし、必要なら心理検査をおこないます。心理検査には、知能検査・発達検査、パーソナリティテスト、認知機能検査などがあります。こうした結果をまとめて、心理学的診断(見立て)をおこない、相談者の悩みにはどんな原因があり(悩みのメカニズムの解明)、どうすれば解決できるかの道筋を心理学的知識を駆使して考えます。
②心理的援助
要支援者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うことです。見立てにもとづいて、必要なカウンセリングや心理療法を実施します。心理療法の技法には、認知行動療法、来談者中心療法、力動的療法、家族療法などがあります。
③関係者への心理的支援
要支援者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うことです。関係者とは、例えば要支援者の家族とかの学校の担任教師、勤め先の上司や同僚といった人たちのことです。要支援者本人だけでなく、それを取り巻く関係者の人々も援助していきます。このために、他の専門職との連携(多職種連携)も重要となります。
④心の健康教育
心の健康に関する知識の普及を図るために、教育や情報提供をおこなう仕事です。例えば、ストレスによる問題を防ぐための情報提供、うつ病や自殺を防止する教育や、いじめや虐待の予防活動があります。エビデンス(科学的根拠)のしっかりした情報を提供する必要があります。
③と④の仕事は、これまでの心理職もおこなってきましたが、国家資格になってとくに強調されるようになりました。これまでの心理職が相談者個人への援助を中心としてきたことへの反省も踏まえて、③と④が追加されました。
Q 公認心理師制度は行政としてどのように運営されていますか?
A 行政的には、文部科学省と厚生労働省の共同の所管で運用されています。2016年に厚生労働省の中に公認心理師制度推進室が作られて、文部科学省からも出向し、公認心理師の行政を担当しています。また、公認心理師試験の実施や資格の登録などは、一般財団法人 公認心理師試験研修センターが行っています。
Q 公認心理師はどのような職場で働いていますか?
A 公認心理師は多くの分野で活躍していますが、主な活動分野は5つです。それぞれの勤務先機関は以下のとおりです。
①保健医療分野:病院、診療所、保健所 など
②教育分野:教育相談機関、学校、学生相談室 など
③福祉分野:障害者支援施設、児童福祉施設、児童相談所 など
④司法・犯罪分野:警察関係、裁判所関係、法務省関係 など
⑤産業・労働分野:企業内外の健康管理・相談室 など
各分野で働く人数を調べた調査では、①②③がそれぞれ25%、④が4%、⑤が6%となっています。その他、私設心理相談室や大学・研究機関などにも勤めています。
Q 他の専門家との連携(多職種連携)はなぜ重要ですか?
A 5分野には他の専門職の方も仕事をされているので、こうした専門家と公認心理師は連携する必要があります。各分野のケアや問題対応は専門家がチームを組んで行ないます。例えば病院では、医師、看護師、公認心理師、精神保健福祉士などがそれぞれの専門性を生かして分業しながら協力します(これをチーム医療と呼びます)。また、学校では、「チーム学校」といって、校長、教諭、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどがチームを組んでいます。このような専門家同士の連携は「多職種連携」と呼ばれます。多職種連携は公認心理師の重要な仕事として強調されるようになりました。公認心理師は心理の専門家ですが、他の職種をよく理解し、うまくコミュニケーションをはかりながらチームに参加する技能も必要になります。
Q 公認心理師の職場は広がっていますか?
A 公認心理師の職場は着実に広がりつつあり、これは社会からの期待が大きいことを示すものです。
医療分野では、医療保険の診療報酬が広がっています。医療保険が適用されると、治療費の多くが国から出されるので、患者個人の負担が減り、その治療が受けやすくなります。これまで公認心理師のおこなう心理的援助はなかなか診療報酬化されていませんでしたが、2020年には、発達障害や児童思春期の精神疾患に対する公認心理師による小児特定疾患カウンセリング料が認められ、2024年には、心的外傷を持つ患者に対する公認心理師による心理支援が認められました。また、これまでの心理職は精神神経科で働くことが多かったのですが、最近では心療内科、小児科、リハビリテーション科、腫瘍科(がんの治療)など多くの科に広がっています。
教育分野では、スクールカウンセラーがすべての公立小中学校に配置され、高等学校、私立学校、特別支援学校、教育相談機関などへの配置も進められています。
福祉分野では、児童相談所の児童心理司の資格に公認心理師が認められ、障害をもつお子さんに対して発達支援を行う施設でも多くの公認心理師が働くようになりました。
司法・犯罪分野では、犯罪被害者への心理的支援が国の方針として認められ、公認心理師が警察や被害者支援機関で働くようになりました。また、家庭裁判所調査官、少年非行に関わる少年鑑別所や少年院の法務技官、成人の犯罪に関わる保護観察官・社会復帰調整官などの職種に公認心理師が採用されるようになりました。
産業・労働分野では、ストレスチェック制度の実施者として2018年に公認心理師が認められました。また、キャリアコンサルタントの国家資格を取得する公認心理師も増えています。
さらに、安定した職場として公務員は有望な就職先です。公認心理師は、メンタルヘルスの専門家の間の調整役として、地域や地方自治体や行政機関のメンタルヘルスを統括する仕事が期待されています。今後、行政官(公務員)として公認心理師を雇用する地方自治体や行政機関が増えるでしょう。