Q 公認心理師になるにはどうすればよいですか?
A 公認心理師になるまでにはいくつかのステップがあります。
第1ステップは、大学において25科目を履修することです。
第2ステップは、大学卒業後、①大学院において実習を含めた10科目を履修するか、②定められた実務施設の研修プログラム(標準3年)において2年以上の実務経験を積むか、いずれかを選びます。これによって国家試験の受験資格が得られます。
第3ステップは国家試験です。
Q 大学ではどのようなことを学びますか?
A 大学では国が定めた25科目を履修しなければなりません。こうした科目を開講している大学で学ぶ必要があります。25科目は以下の3つの科目群に分かれます。
A)心理学基礎科目(公認心理師の職責、心理学概論、臨床心理学概論、心理学研究法、心理学統計法、心理学実験)
B)心理学発展科目
①基礎心理学(知覚・認知心理学、学習・言語心理学、感情・人格心理学、神経・生理心理学、社会・集団・家族心理学、発達心理学、障害者・障害児心理学、心理的アセスメント、心理学的支援法)
②実践心理学(健康・医療心理学、福祉心理学、教育・学校心理学、司法・犯罪心理学、産業・組織心理学)
③心理学関連科目(人体の構造と機能及び疾病、精神疾患とその治療、関係行政論)
C)実習演習科目(心理演習、心理実習)
Q 大学院ではどのようなことを学びますか?
A 大学院での必修は10科目であり、こうした科目を開講している大学院で学ぶ必要があります。
10科目は、大きく心理実践科目と実習科目に分かれます。前者の心理実践科目は、知識を習得する座学ではなく、技能を習得するための実践的科目です。これは5分野科目と4業務科目に分けられます。
5分野科目は、医療・福祉・教育・司法・産業の5分野ごとの理論と支援の展開を学びます。
4業務科目は、公認心理師法で定められている4業務(①心理的アセスメント、②心理支援、③関係者への支援、④心の健康教育)の理論と実践を学びます。心理支援については、従来の心理療法の理論に加えて、行動論・認知論に基づく心理療法(行動や認知の変容に焦点を当てた心理療法理論の総称)の理論と方法が含まれています。後者の実習科目については次で述べます。
Q 実習ではどのようなことを学びますか?
A 公認心理師の養成では、大学・大学院の講義室で学ぶだけでなく、現場での実習が重視されています。大学の「心理実習」では、実践の現場に出て、担当教員や実習指導者の指導のもと、公認心理師の実際を見学・体験します。実習の時間は最低80時間です。
また、大学院の「心理実践実習」では、担当教員と実習指導者の指導のもと、みずから心理的支援を実践します。実習時間は最低450時間です。このうち270時間以上は、実際に困りごとを抱えた方を対象として、自身が担当する実習です。
Q 公認心理師養成の「科学者-実践家モデル」はなぜ必要ですか?
A 大学では、まず基礎心理学を学んで科学的な考え方や知識を身につけます。そのうえで、実践心理学の知識を身につけ、さらに大学院の実習で技能を学びます。このような基礎と実践の2階建ての構造を「科学者-実践家モデル」と呼びます。基礎心理学はこのうちの「科学者」の部分に当たるのです。科学者-実践家モデルは公認心理師養成の基本的な教育理念です。科学者-実践家モデルは、もともとはアメリカの大学院における心理職の養成理念として唱えられたものですが、今では世界標準の考え方になっています。公認心理師は、科学者としての客観的知識や探究心と、実践家としての技術や人間性の両方を兼ね備えた高度専門職業人をめざすので、科学者-実践家モデルの理念が大切にされるのです。
Q 国家試験はどのように実施されますか?
A 公認心理師試験は、毎年3月に実施されます。4時間の試験時間で154問を解かなければならず、60%の正答率が合格基準となっています。マークシートの多肢選択の筆記試験です。大学で学んだ「知識」を、いかに大学院や実習で「技能」に裏付けることができたかを調べるように作られています。大学と大学院6年間の長い努力の成果をはかるのが国家試験です。
Q 公認心理師の資格を取ってからはどんな学習が必要ですか?
A 国家試験に合格することは、プロとしての出発点であって、終着点ではありません。合格後もずっと生涯学習が続きます。本当の技能は、現場に出てから、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(現場での実務を通じた訓練)によって身につく面があります。
公認心理師の資格は生涯有効であり、資格更新などはありませんが、公認心理師法では資質向上の責務があり、知識及び技能の向上に努めなければなりません。そのためには職能団体や学会の研修を受けたり、上位専門資格を取ることなども勧められます。
Q 公認心理師の職能団体はどのような働きをしていますか?
A 医師には医師会があり、弁護士には弁護士会があるように、公認心理師の職能団体が作られています。そのひとつである当会は、国家資格化の3つの目的に対応した活動をおこなっています。
第1の活動は、心のケアを充実させ、国民の健康の保持・増進をはかることです。公認心理師の5分野に対応して、①医療部会、②教育・特別支援部会、③福祉・障害部会、④司法・犯罪・嗜癖部会、⑤産業・労働・地域保健部会の5つの専門部会を設けています。
第2の活動は、公認心理師がより質の高い仕事ができるような体制づくりです。「科学者-実践家モデル」と「エビデンスにもとづく実践」の理念を重視し、専門職としての公認心理師の質向上と質保証をめざしています。養成団体の公認心理師養成大学連絡協議会(公大協)とは、科学者-実践家モデルの理念を共有して協力しています。公認心理師のスキルアップ(技能向上)のために、研修会を毎年多数開催し(多くは厚生労働省・文部科学省後援)、生涯学習の道筋を示します。
第3は、公認心理師の地位向上にむけた活動です。行政官庁や国会議員に働きかけて、公認心理師の社会的地位向上や職域拡大、働きやすい環境を作るために政策提言をおこなっています。上位専門資格を認定し公認心理師のキャリアップ(職業的地位と就職機会の向上)をはかり、会員同士の交流や情報交換をおこないます。
Q 世界レベルでは、公認心理師のモデルとなる制度はありますか?
A 公認心理師の将来を考えるに当たっては、広く世界に目を向ける必要があります。世界の心理学の専門家の間では、今世紀に入ってパラダイムシフト(構造的変革)がおこり、方法論や価値観が劇的に変化しています。具体的には科学的エビデンスにもとづく実践や認知行動療法の確立ということです。
その最先端は、イギリス政府が2008年におこなった「心理療法アクセス改善」政策です。この政策では、うつ病や不安障害に悩む国民に対して、無料で、認知行動療法を中心とする心理療法を提供しました。イギリス政府は多額の費用をかけて心理療法のセラピストを多数養成しました。これによって、2008~2013年に、全国で38万人が心理療法を受け、その46%が回復しました(レイヤードとクラーク著『心理療法がひらく未来:エビデンスにもとづく健康政策』丹野義彦監訳、ちとせプレス、2017年)。日本でもこうした政策をモデルとして、公認心理師が活躍できる体制を実現したいものです。
Q エビデンス(科学的根拠)は公認心理師にとってなぜ重要ですか?
A 2020年のコロナ禍において、予防ワクチンのエビデンスとか、治療薬のエビデンスなど、広く「エビデンス」という言葉が一般的に使われるようになりました。エビデンスとは科学的根拠のことを示します。総務庁は、2017年に「エビデンスに基づく政策立案」を推進すると発表しました。公認心理師も自分たちの仕事のエビデンスを積極的に示していく必要があります。
公認心理師の仕事がエビデンスがあるのかどうか、社会から厳しく問われるようになっています。公認心理師現任者講習会テキスト(日本心理研修センター,2018年)によると、「エビデンスに基づかない心理的実践はクライエントのためにならないばかりか、時にクライエントに不利益を与える」と書かれ、インフォームドコンセント(説明と同意)では「その援助法の効果とリスク、それらの根拠」を説明しなければなりません。インフォームドコンセントの観点からも、要支援者に対して「これからおこなう援助にはこのようなエビデンスがある」と明らかにする義務があります。
2022年度厚生労働省の「公認心理師の多様な活躍につながる人材育成の在り方に資する調査」においては、現場の公認心理師がエビデンスに基づき実践することが重要だとしています。就職後5年目の公認心理師は、「臨床実践のプランニングにおいて、関連する臨床試験のエビデンスや診断ガイドライン等を活用できる」、「自らの心理実践の有効性について客観的な指標を用いて評価」できる必要があると述べています。国家資格として公認心理師がみずからの業務のエビデンスについて説明を求められるのは当然のことと言えます。