司法・犯罪分野においては、「再犯防止」の取り組みが重要な課題とされており、性犯罪や薬物犯罪を中心に心理学的アプローチが行われている。このような取り組みの多くはエビデンスに基づき取り組まれており、一定の成果をあげているが、さらなる効果の向上やスルーケアを行うための体系化が課題とされている。
また、子どもの家庭内での被虐待体験や学校等でのいじめの被害体験を背景として、トラウマを含むその影響への適切な対応は以前にも増して、家庭や学校における大きなテーマになっている。
さらに、いわゆる「わいせつ教員対策法」の施行に伴い、児童生徒を性暴力から守るための取り組みも喫緊の課題である。
被害者支援では、支援機関における性犯罪・性暴力や児童虐待の相談は年々増加している。犯罪被害者等基本計画に基づき犯罪被害者支援の枠組みは整備されつつあるが、犯罪被害が人の心にもたらす影響は深刻であり、一層の充実が必要である。
嗜癖分野については、上述の違法薬物対策に加えて、飲酒、喫煙、インターネットゲーム行動症、そしてIR推進法に伴うカジノ設置を見すえたギャンブル行動症への嗜癖対策などは、国民の心身の健康を守るうえで非常に重要な課題であり、コロナ禍においてもその対策の重要性が指摘されている。
再犯防止を目的とした心理学的アプローチは、心理専門職としての知識と技能をもった公認心理師が支援スタッフに加わることによって、より一層の効果の向上に貢献することができる。また、こころの問題が「非行」として現れる少年に対して、各処遇現場等の公認心理師がエビデンスに基づく諸研究の成果等を駆使してその処遇に臨むことによって、再非行を防止することに寄与できる。
わいせつ教員対策においても、再犯リスク評価、再犯防止指導など、これまで司法分野で積み上げてきた技能を用いて貢献することができる。
被害者支援では、犯罪被害が人の心に与える影響は、トラウマ反応やうつ状態など様々である。公認心理師は心理支援の専門職として、トラウマ反応への適切な対応のみならず、被害者や遺族の人生を心理的に支える役割を果たすことができる。
嗜癖分野では、現時点で嗜癖に対する十分な効果を持つ治療薬は存在しておらず、認知行動療法を始めとする心理療法が最も有効な対策となっている。このため、公認心理師は「健康日本21(第二次)」の目標項目にも掲げられている多量飲酒者への支援や禁煙支援に効果的に取り組み、ひいては健康寿命の延伸、生活習慣病の防止、医療費削減等に寄与することができる。
再犯防止を目的とした心理学的アプローチの内容は、エビデンスに基づく内容で構成されている。公認心理師の会は、エビデンスに基づく取り組みを軸としており、研修機会の提供等を通してスタッフの育成等に貢献可能である。また、会員にとっては、自身の専門領域だけでなく、少年を巡る隣接領域の専門家が集う公認心理師の会での他会員との交流によって自身のスキルアップが図られ、より広い視点から研究や臨床実践を行うことができるようになることが期待できるため、国民の心身の健康に寄与できると考えられる。
被害者支援では、研究や臨床知見の積み重ねによって得られた、被害者心理の理解や心理支援の適切な実践について広く公認心理師に研修し、犯罪の被害に遭った国民が、日本全国どこであっても適切な心理支援が受けられるように努める。
嗜癖問題においては、医師、保健師、看護師など関連する専門職と連携しながら、十分にトレーニングされた公認心理師としての専門性を活かしながらエビデンスに基づいた心理療法の実施、アフターケアの実施などを通して、効果的な対策を講じるとともに、国民一般に対する啓発活動も積極的に実施したい。
再犯防止を目的とした心理学的アプローチに取り組む心理職の多くが非常勤雇用であり、資質の向上のためにスタッフの雇用の充実のための雇用の枠組みの拡大について検討をお願いしたい。
また、社会的なスルーケアを目指す際に、硬直化しがちな縦割り行政の改善や民間との連携の仕組み作りに取り組んでいただきたい。具体的には、刑事施設が法務省管轄であり、社会内の受け入れ施設が厚生労働省管轄であることに起因する課題が多いため、省庁を横断した有機的なつながりを可能とする制度設計をお願いしたい。すでに、高齢または障害のために釈放後直ちに福祉サービスを受ける必要がある者に対するいわゆる「特別調整」においてはスルーケアの実績があることを踏まえ、対象の拡大を切に要望する。
また、公認心理師は、日々少年のメンタルヘルスの向上や再非行防止に向けて、日々、研究や臨床実践に従事しているため、そのエビデンスに基づく成果を臨機応変に政策決定に生かしていただけるような体制の構築をお願いしたい。
被害者支援では、犯罪被害という理不尽な経験が、被害者や遺族の経済状況も悪化させている。その中で対価を払って心理支援を受けることは非常に困難である。補助金等で民間支援機関等での心理支援を充実させ、犯罪被害者等がより支援を受けやすい環境となるよう求めたい。
嗜癖分野では、公認心理師に限らずこの分野の専門家の数が十分ではないこと、および治療機関が問題発生数に比して著しく少ないことが課題である。専門機関の拡充、専門家の養成、研修などへの支援をご検討いただきたい。