公認心理師の会

医療部会の課題・活動方針

保健医療分野の課題と当会の活動方針

a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか

心の健康に関する公衆衛生上の問題として、メンタルヘルスケアのニーズと供給のギャップがある。その背景にはさまざまな要因があるが、ここでは心の健康に関する情報の氾濫、メンタルヘルス支援へのアクセスの難しさ、医療体制の地域間格差の問題をあげたい。コロナ禍を経て、保健医療に関するインターネットの活用が急速に広がっている。メンタルヘルスに関しても様々な情報が氾濫しており、不適切な健康情報や詐欺まがいの商材につながるものも認められ、適切なケアへの妨げになっている。また、有効なケアの存在を知ったとしても、その支援を提供している機関等がない場合や、そうした機関までのアクセス方法がわからない場合、ケアを受けることはできない。ITを活用した支援の発展もみられるが、リテラシーにも格差があり、ケアが必要なところに届いていない現状がある。

医療体制の地域間格差について、精神医療機関は不調を感じた人が受診できるまでの期間に幅があり、地域によっては相当の時間を要する。こうしたケースへのタイムリーなケアや支援に公認心理師を活用することが求められる。

また心身の治療を担う医療現場の問題として、精神科治療における心理支援の乏しさがある。令和6年度診療報酬改定では「心理支援加算」「児童思春期支援指導加算」「精神科療養支援体制加算」の新設等で公認心理師の活動が評価される項目が増加した。しかしながら、いまだ精神科治療においては薬物療法が中心であり、生活に支障を及ぼす心理・行動上の問題への対応は不十分と言わざるをえない。

また、身体疾患患者へのメンタルヘルスケアの乏しさも課題の1つである。がん患者に対する心理支援は進む中、他の身体疾患においてもメンタルヘルスケアの重要性は明らかであるが、実施できる医療機関は限られている。

b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか

国民全体に向けた貢献として、「国民に対する心の健康に関する正確な知識の普及」が第一に挙げられる。公認心理師は、その養成過程において精神医学はじめ、心理支援に関する基礎心理学の知見を学習する。また医療現場での実習が必須となっていることから、心の健康とその対応の原則について、現実的かつ科学的な知識を有している。

次に、公認心理師は5分野(医療・保健/福祉/教育/産業・労働/司法)にまたがる心理支援の専門資格である。そのため、先に述べた地域間格差はあるにせよ、医療以外の広い分野でも、心の健康に対する適切な支援に貢献できる。これらはメンタルヘルス不調の予防や悪化に対して非常に有効であり、広く国民の心の健康に貢献できる。

また、保健医療現場で、利用者/患者がサービスを受ける際、もしくは専門職がサービスを提供する際に、さまざまな要因で困難が生じる場面も少なくない。こうした際に、公認心理師がコミュニケーションの専門家として困難をアセスメントして対応を検討し、保健医療サービスが利用者/患者に届くものとなるよう工夫して対応することができる。

また、医療では疾病の治療や機能回復のためのリハビリテーションの提供が一義的な目的であるが、心理支援では健康的な部分へのアプローチを含めた対応を行うことが可能である。この専門性を活かし、多職種連携・多機関連携の中で全人的支援に貢献できる。

最後に、公認心理師のほとんどは修士論文を執筆して大学院修士課程を修了することから、一定の研究スキルを有している。それらは目に見えにくい心の健康について、客観的・定量的な視点で明確にとらえ、それに基づく心理支援につながるものであり、複雑な医療現場の意思決定にも貢献できる。加えて、臨床実践の中からリサーチクエスチョンを見出し、よりよい保健医療サービスや心理支援を展開していくための研究活動に発展させることも可能である。

c.公認心理師の会として、どのように国民に貢献したいか

「心理的ケアが必要とされた時に適切なケアを届けられる環境」を構築することによって国民に貢献したい。換言すれば、専門職としてエビデンスに基づく心理支援を国民に届けることを目指したい。この目標に向け、公認心理師の会は、

  1. 専門家としての生涯にわたる修練環境の提供とさらなる高い専門性を持つ公認心理師の養成、
  2. 情報発信、
  3. 新たなエビデンスの構築の3つの活動を行っていく。

高い専門性を持つ公認心理師の養成について、これまで当会は,医療分野における心理支援に求められるコンピテンス(能力)を具体的に整理してきた。その項目に基づき研修や資格認定を行うことで、医療で働ける公認心理師の最低基準を担保することができ、エビデンスに基づく心理支援を患者やチーム医療活動に届けることにつながる。さらに、こうした環境を整えることが、公認心理師の生涯にわたる継続的な訓練となり、高い専門性に基づく心理支援の提供が促される。

情報発信については、医療分野の臨床や研究に従事する当会から、効果が認められている心理支援の知見や、心の健康に関する役立つ情報の発信を検討している。

新たなエビデンスの構築としては、臨床研究の推進や精査など、日々の公認心理師の実践を研究としてまとめるサポートなどを検討する。

d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと

これまで以上に、公認心理師による心理支援の診療報酬化を強くお願いしたい。また、チーム医療活動の加算や対人援助関係の事業における施設基準としても、公認心理師の参画を検討していただきたい。こうすることで活動領域が広がり、メンタルヘルス不調へのケア/支援を求める国民の心の健康に貢献できる。

また、メンタルヘルスケアに関する基本法の整備も引き続き進めていっていただくとともに、医療におけるエビデンスの普及以前に定着した旧制度との調整も検討いただきたい。

最後に、診療報酬や法制度に関して、心理支援の専門家集団である我々との継続的な議論の場の設定をお願いしたい。