本ページでは、公認心理師が国民の心身の健康のためにどう貢献できるか、社会的な問題の解決にどう寄与できるか、そのことに一般社団法人 公認心理師の会がどのように関われるかをまとめた。
情報公開:2024年5月10日
公認心理師が国家資格となったことで、国民の心身の健康に深く貢献することができるようになった。
公認心理師法の立法を進めていただいた国会議員の方々、関連する行政の方々、立法化を推進いただいた方々に深く感謝したい。
公認心理師の活動は、1)保健医療、2)教育、3)司法・犯罪、4)産業・労働、5)福祉の5分野からなるが、それぞれの分野の法制度で公認心理師が明記された。これにより、国民の健康に貢献できるようになった。
国家資格になったことで、わが国の医療保険制度の中に公認心理師が正式に位置づけられた。令和6年4月の診療報酬改定では「心理支援加算」「児童思春期支援指導加算」「精神科療養支援体制加算」の新設等によって公認心理師独自の活動が評価され、また多職種支援に参画しやくなった。これらの変更によって、チーム医療への貢献が一層促進され、ひいては国民の心身の健康に寄与できるようになった。
公立の学校に配置されているスクールカウンセラーの中心として公認心理師が位置づけられ、児童生徒および保護者、教職員のメンタルヘルスに対する働きかけが可能になった。これにより、学校現場における他の専門職との連携が進み、チーム学校としての活動に公認心理師がいっそう貢献できるようになった。
犯罪被害者への支援、ギャンブル行動症・アルコール使用症への集団療法などにおいて、公認心理師が明記され、公認心理師が貢献できるようになった。これにより、他職種との連携が進み、その貢献はいっそう大きなものになった。
ストレスチェック制度において、公認心理師が企画や結果の評価を行う実施者として法令に明記され、労働者からの相談対応についても指針の中で相談対応の体制整備が望ましい専門職として示された。また、団体経由産業保健活動推進助成金の相談対応を担う専門家の要件としても公認心理師が示されている。このように公認心理師が職場のストレス軽減に大きく貢献できるようになり、他の専門職との連携も進んだ。
児童福祉(例えば児童相談所における児童心理司の資格など)、障害者福祉(例えば療養・就労両立支援指導における両立支援コーディネーターなど)において、公認心理師が明記され、他職種との連携が深まり、国民の福祉に大きく貢献できるようになった。
公認心理師法42条では、関係者との連携が義務づけられており、公認心理師には多職種連携のチーム活動が期待されている。上で述べたように、公認心理師は各分野で他の専門職との連携を深め、これにより、国民の健康への貢献はいっそう大きなものになった。
養成と国家試験が法制度化されたため、心理職の活動の質保証が担保され、国民が安心して公認心理師に相談ができるようになった。これに対応して、公認心理師自身もさらに一層効果的な専門技能を高めるために、継続的に自己研鑽を行っている。
公認心理師にとっても、国家資格ができたことは画期的なことであり、多くのメリットが生まれた。
国家資格として認められたことで、他の国家資格の専門職と対等の立場でチーム活動ができるようになった。例えば、病院では、医師・看護師・臨床検査技師・作業療法学士など、ほとんどが国家資格であるのに対し、これまで長い間、心理職だけが国家資格ではなく、給与も専門職ではなく一般事務職として扱われることもあったが、国家資格となったことで、ようやく他の資格と同等になり、専門職として認められるようになった。
公認心理師が国家資格となり、前述のように各分野の法制度で公認心理師が明記され、社会の中のいろいろな領域で職域が拡大し、能力を発揮できるようになった。また、国家資格になることによって、健康増進の施策立案にも公認心理師が意見を求められる機会が増えた。
厳しい養成と国家試験によって、心理支援業務に対する知識と技能が高まり、法律や制度の知識も必須となり、また倫理や職責などのプロフェショナリズムを深く自覚するようになった。大学と大学院・実務経験プログラムの6年の養成制度が確立したことで、能力が高度化・均質化され、より優秀な学生が集まるようになっている。
公認心理師の会は、公認心理師が貢献できる社会的な問題にはどのようなものがあるか、当会として今後どのように貢献していくべきかを議論した。検討したテーマは下記の4つである。
a.国民の心の健康において、今、どんなことが問題になっているか
b.これらの問題に対して、国家資格である公認心理師はどのように貢献できるか
c.公認心理師の会としてどのように国民に貢献したいか
d.問題の解決に向けて、政治や行政にお願いしたいこと
当会は、1)医療部会、2)教育・特別支援部会、3)司法・犯罪・嗜癖部会、4)産業・労働・地域保健部会、5)福祉・障害部会の5つの専門部会からなるが、各部会で上の4点を議論した。これらの結果は、本文書の後半に掲載した。
ここでは、まず、各部会の見解をまとめて、当会の全体の活動方針を示したい。
現在、わが国のメンタルヘルス(心の健康)の維持増進は大きな社会的課題となっている。ストレスやうつ病などの精神疾患は国民の幸福度を下げる大きな要因であり、また、自殺、産後うつなどの周産期の心理的問題、犯罪、児童虐待、ギャンブル行動症やアルコール使用症といった多様な社会問題が国民の不安を高めている。また、コロナ禍が続くことにより、心の不調、不安、抑うつ、攻撃性などが強まっている。5分野ごとにみてみると、さまざまな心の問題が浮かび上がってくる。
保健医療分野では、心の健康に関する情報の氾濫(不適切な健康情報の流布)、メンタルヘルス支援へのアクセスの難しさ、医療体制の地域間格差、精神科医療における心理支援の乏しさ、がんなどの身体疾患に対する心理支援の不十分さなどが問題となっている。
教育分野で問題になっているのは、子どもの自殺、自然災害等の増加に伴う心の危機、児童虐待の増加、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う子どもの生活習慣の変化、保育所・幼稚園から小学校への移行に伴う問題、教職員のメンタルヘルスの問題、GIGAスクール構想に基づく子どもの生活習慣の変化、大規模災害などに伴う児童生徒集団および関係者に対する心理学的支援などである。以上のような支援活動において、エビデンスに基づいた支援が不十分である点も問題である。
司法・犯罪分野では、犯罪の再犯の防止、非行対策、わいせつ教員への対策、犯罪の被害者への支援などが大きな問題となっている。また、嗜癖分野では、違法薬物、アルコール使用症、多量飲酒、インターネットゲーム行動症、ギャンブル行動症などが大きな問題である。
企業や組織で働く人々においては、働き方の急速な変化・多様化が進み、プラスの面がある一方で、メンタルヘルスの悪化といったマイナスの面も出てきている。従業員個人には自律(セルフコントロール力)がいっそう求められ、そのため企業は多様なニーズを持つ従業員をどのように束ねてワーク・エンゲイジメント(仕事への関与)を高めていくかといった心理的課題が重要になっている。
5)福祉分野
福祉の分野には、児童福祉、障害者福祉、高齢者福祉などが含まれており、児童虐待における心理支援、知的障害のメンタルヘルスケア、発達障害児の早期療育、障害者就労の支援などが大きな課題となっている。
上のような問題の解決に向けて、国家資格である公認心理師は努力しており、その貢献が期待されている。
公認心理師とは、公認心理師法によると、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、①心理アセスメント、②心理的援助(相談・助言・指導)、③関係者への心理的援助、④心の健康教育(心の健康に関する知識の普及を図るための教育や情報提供)といった仕事をおこなう。
医療保険制度の診療報酬の中に公認心理師が位置づけられ、チーム医療の一員として、国民の心身の健康に大きく貢献できるようになったことは、国家資格の大きな利点である。また、心の健康情報の氾濫に対しては、公認心理師は「心の健康教育」の専門家として、社会に対して正確な知識を普及することに努めている。メンタルヘルス支援へのアクセス困難、精神科治療における心理支援の乏しさ、医療体制の地域間格差に対しては、公認心理師はコミュニケーションの専門家として、保健医療サービスへのアクセスへの支援もおこなっている。公認心理師の大きな特徴は、心の不健康な部分への介入とともに、「健康的」な部分に対しても働きかけることである。公認心理師は研究活動のスキルもあるので、つねに医療サービスの拡大・向上に努めている。
教育分野では、公立の学校に配置されているスクールカウンセラーの中心として公認心理師が位置づけられ、児童生徒および保護者、教職員のメンタルヘルスに対する働きかけが可能となった。公認心理師は「心の健康教育」の専門家として、子どもの心の健康に関して正しい知識の普及を図るため、教育及び情報提供に努めている。また、アセスメントや心理支援の専門家として、ケースフォーミュレーションに基づく子ども一人ひとりに合わせた支援計画を立案し実施している。
司法・犯罪分野では、再犯防止や再非行防止において、公認心理師がエビデンスにもとづく処遇をおこなうことによって成果をあげている。わいせつ教員対策においても、こうした再犯防止の技能が貢献している。犯罪被害者への支援においても、公認心理師は、心理支援の専門職として大きく貢献できる。嗜癖分野では、認知行動療法を始めとする心理療法が最も有効な対策となっており、公認心理師が大きく貢献している。
労働環境が変わる中で、従業員はストレスマネジメントをおこなうことが重要になってくるが、ストレスマネジメントの支援こそは公認心理師の得意な仕事である。企業のストレスチェックの実施者として公認心理師が新たに指定されるなど、職場のストレス軽減において公認心理師が大きく貢献できるようになった。また、仕事と生活(病気、育児、介護など)の両立の支援も公認心理師が貢献できるスキルである。また、公認心理師は、従業員の心身の不健康を防ぐメンタルヘルス対策だけでなく、仕事へのモチベーションやワーク・エンゲイジメント(仕事への関与)を高めることについても貢献できる。また、従業員の研修方法についても、エビデンスのあるサービスの情報提供をおこなうことができる。
児童虐待における心理支援では、公認心理師は、子どもや施設の集団および関連機関からの情報の的確なアセスメント、心理療法、家族支援が期待されている。発達障害児の早期療育では、療育プログラムの実施、保護者の療育への適切な関わりの支援、応用行動分析に基づく集中性をもった個別介入などで公認心理師が貢献している。障害者就労では、「働く障害」となる行動問題の改善、再発予防に向けた環境の調整や合理的配慮事項の検討などで公認心理師が貢献している。
以上のような高度専門職業人として活躍できる深い専門知識と技能を有する公認心理師をめざして、一般社団法人 公認心理師の会が創設された。当会の創設理念は次のようなものである。
当会は、職能団体として、公認心理師実践におけるこれらの理念の普及と啓発を推進しており、下記のような活動で、国民のニーズに応えうる公認心理師の資質向上に努めている。
5分野の専門部会は、活動の成果をもとに、その分野の公認心理師の活動に必要とされる分野別コンピテンス(知識と技能)のリストを作成している。また、5分野を横断する「共通コンピテンス」も作成し、科学者-実践家モデルなど、会が推奨する公認心理師像の基本理念を具体化した。研修会や専門資格制度はコンピテンスリストにもとづいて行われる。こうしたコンピテンスにもとづく事業が会の特徴である。
公認心理師法43条では、公認心理師は知識と技能の向上に努めなければならないという資質向上の責務がある。国家資格取得後の研修をどのように本格化させるべきは、公認心理師制度の大きな検討課題となっている。当会は、コンピテンスリストにもとづき、研修会(ワークショップ)を毎年多数開催している。これによって、ひとりひとりの公認心理師が自己研鑽を積むことができるようにサポートしている。この事業は、これまで毎年、厚生労働省および文部科学省から後援をいただいている。
コンピテンスリストにもとづき、一定のレベルに達した公認心理師に分野ごとの専門公認心理師の資格を認定する。こうれにより、国民が安心して頼れる公認心理師のコンピテンスの質を保証する。公認心理師にとって、上位専門資格は国家資格取得後の公認心理師の学修と自己研鑽の道筋を示している。
心の健康について不適切な健康情報が流布して問題になっているが、公認心理師は「心の健康教育」の専門家として、適切な情報を提供する義務がある。当会は、エビデンス(科学的根拠)がしっかりした心理支援や心の健康に役立つ情報を発信している。
各専門分野の活動方針をまとめると、次のようになる。
医療分野における当会の活動は3つの柱からなる。第1は、高い専門性を持つ公認心理師の養成であり、この分野で働く公認心理師のコンピテンスを明確にして、研修や専門資格認定をおこないたい。第2は、情報発信であり、効果が認められている心理支援の知見や、心の健康に関する役立つ情報を発信する。第3は、医療現場に役立つ新たなエビデンス(科学的根拠)の構築である。
この分野でも、当会は「科学者-実践家モデル」を重視し、科学的根拠のある支援を開発し実施していくことを重視する。学校教育における日常生活の場で子どもや教職員、保護者等に対する「エビデンスに基づく情報提供」を確立していきたい。
司法・犯罪分野では、再犯防止の活動において、その中心はエビデンスに基づく実践であり、当会の理念と活動が大きく貢献できる。また、被害者支援では、当会は被害者心理の理解や支援の実践についての研修会を公認心理師に対して開催している。嗜癖分野においても、エビデンスに基づいた心理療法の実施、アフターケア、他専門職との連携などついて、公認心理師の研修をおこなう。また、国民に対する啓発活動を積極的に実施する。
まず産業・労働・地域保健分野で働く公認心理師が少ないので、研修などを通して育成したい。また、企業内で公認心理師が役立つことがまだ知られていない現状なので、企業で公認心理師が活用できることを広く企業に発信していきたい。また、企業が多様な人材を受け入れるようになり、ダイバシティ&インクルージョンが重要となっているが、それが生産性向上などにどんな影響を与えるかを調べる効果検証にも力を入れていきたい。さらに、公認心理師のサービスの内容について、従業員に対する情報提供や発信の方法も考えていきたい。
福祉の現場で適切なケアができる公認心理師を育てるために、当会は、コンピテンスの明確化と研修会をおこなっている。児童虐待における心理支援、知的障害のメンタルヘルスケア、発達障害児の早期療育について、エビデンスに基づくアプローチを中心に、研修会をおこない、社会への情報発信をおこなっている。障害者就労について、当会は、有効性が期待される応用行動分析や認知・行動療法などの科学的心理学に基づく研修会をおこない、スキルアップの支援を行っている。また、ひきこもり、認知症ケア、インクルーシブ教育などにも対応している。
当会の倫理・職責・関連法規委員会では、公認心理師の倫理と職責についての活動方針をまとめた。これは本文書の後半に掲載されている。委員会では、当会の理念にもとづいて、倫理綱領を作成している。また、コンピテンスの明確化、研修会の充実、上位専門資格を通して、公認心理師の職責のスキルアップをはかる。
上に述べたような社会的問題の解決に向けて、公認心理師ひとりひとりが努力し自己研鑽を深めているが、公認心理師制度の充実のために、ぜひ政治や行政の方々にご助力をお願いしたい。
国家資格ができてまだ日が浅いこともあり、常勤職を持つ公認心理師が少なく、国家資格保有者としての生活は苦しいのが現状である。常勤職を持つ公認心理師の割合は全体で58%であり、他は非常勤職だけで生活している(日本公認心理師協会、2021)。5分野ごとにみると、常勤職を持つ割合は、保健医療分野53%、教育分野22%、福祉分野50%、司法・犯罪分野73%、産業分野41%となっており、とくに教育分野で低い。常勤職と非常勤職だけの人を較べると、非常勤職だけの人は年収が200万円くらい低い。
前述のように、公認心理師は、社会の中のいろいろな場面における職域が拡大したが、さらにいろいろな分野で活躍できる能力を持っている。従来のカウンセリングや心理テストといった心理職の活動にとどまらず、例えば、官庁や地方自治体におけるメンタルヘルスを包括する行政官など、5分野のいろいろな領域において公認心理師を活用していただくことなどをお願いしたい。
この分野においては、さらなる診療報酬の拡大をお願いしたい。公認心理師の活動が評価される項目は徐々に増えつつあるが、活動内容に見合った内容に一層近づいていくことが望まれる。公認心理師への診療報酬が拡大することでメンタルヘルス支援へのアクセスが容易になり、ひいては国民の心身の健康に対する貢献が高まる。また、メンタルヘルスケアに関する基本法の整備、エビデンス以前に開始された旧制度との調整、法制度改革時に公認心理師との議論の場の設定なども望まれる。
この分野では、まずスクールカウンセラーの常勤化とスクールカウンセラーの質の向上を図るための制度化をお願いしたい。スクールカウンセラーはほとんどが非常勤職であり、教育分野の公認心理師の常勤率は22%にすぎず、5分野で最も低い。常勤化されることによって、スクールカウンセラーは、子どもの日常的な情報収集および援助が可能となり、子どもの自殺、児童虐待等の予防の向上が期待できる。また、子どもだけでなく、保護者や教職員のメンタルヘルスに対する日常的な働きかけが強化され、問題の早期対応や予防的効果が期待できる。そのうえで、スクールカウンセラーに対するエビデンスに基づく実践能力向上の研修の制度化をお願いしたい。また、新たな「こども家庭庁」の設置において、公認心理師の活用をお願いしたい。さらに、生徒指導提要改訂、デジタル庁の教育データ利活用、夜間中学の設置などにおいても公認心理師への積極的活用を期待したい。
司法・犯罪分野では、再犯防止に関わる心理職の常勤化をお願いしたい。また、行政官庁間を横断した体制の構築や、官と民間との連携の仕組み作りが望まれる。また、少年非行や再非行の防止において、エビデンスに基づく成果を政策決定に生かしていただけるようにお願いしたい。また、被害者支援では、被害者や遺族の心理支援の経済的援助を期待したい。嗜癖分野では、専門機関の拡充、専門家の養成、研修などへの支援を検討いただきたい。
企業のストレスチェック制度をさらに効果的に推進するために、公認心理師の専門性を活かせるように、積極的な活用をお願いしたい。ストレスチェック制度における集団分析は、公認心理師が得意とするものなので、活用を明文化していただきたい。また、メンタル不調の従業員だけでなく、全ての従業員を対象にプラスの方にさらに高める支援(例:コーチング・リーダーシップトレーニングなどの人材開発支援)における公認心理師の活用にも力を貸していただきたい。
子どもの年齢によって担当部署の情報引き継ぎの問題が生じることがあり、子どもデータベースの構築においては、子供を中心とした制度設計をお願いしたい。また、障害児通所支援の在り方について、支援の類型化が提案されているが、それに当たっては、科学的根拠を重視した政策決定を期待したい。